第2回 独立と人工毛の開発
私が独立開業したカツラ店では、
人工毛専門を事業の柱にしていました。
実は最初に勤めたカツラ専門店の頃、
人工毛でできたカツラが、初めて日本に入ってきました。
そのとき私は、人工毛の良さに惹かれ、心酔していきました。
これまでの人毛は、どうしても時間の経過とともに、
変色したり、毛が絡んでもつれたりしていました。
それに引きかえ、人工毛は変色しません。
しかも、もつれにくい。
そういう人毛にはない非常に素晴らしい特性をもっていました。
ただし、大きな問題も抱えていました。
その人工毛をどのように加工すれば人に使えるカツラになり得るか?
その技術が、確立していませんでした。
しかも当時は、人毛の方が断然良い。
という定説が一般的でした。
人工毛には、3つの弱点がありました。
まず、艶がありすぎてテカること。
次に、熱に弱いこと。そして、ボリューム感がない。
たとえて言うと、お人形さんのような髪です。
この欠点を如何にして克服するか。
これが普及の大きなカギを握ります。
人工毛はなんと言ってもコストが安い。
そういうこともあって、技術革新が進めば、
欠点も克服され将来、必ず大いに普及するハズだ。
また将来、人毛は入手困難になるという予想もありました。
私は独立開業後、兎にも角にも人工毛の欠点を克服するため
その研究に昼夜を問わず没頭しました。
そうやって、ついにと言うか、
やっと欠点の一つである艶消しの技術をやっとの想いで克服しました。
これによって、人工毛の専門店として何とか、
軌道に乗り始めました。
熱に弱いことへの克服に関しましては、
人工毛の素材メーカーからの依頼で、
カツラの加工試験を私たちが行いました。
同時にボリューム感のでる加工方法も
独自研究により克服していきました。
このような弱点の克服にともない私のカツラ事業は、
徐々に軌道に乗ってきました。
ちょうど、それが創業5~6年を経過した頃のことです。
ところが、ある大手カツラメーカーが、
人工毛のカツラの取扱を始めました。
それも、私が製造を依頼している
海外工場の独占権を手に入れて・・・
まさに青天の霹靂
独立して数年の小さな私の店では、
どうすることもできません。
かと言って、指をくわえて見ている訳にもいきません。
そこで、考え抜いた私は現地で別会社の事務所を経由させ、
その工場から迂回供給できるように手を打ちました。
過去には、いろいろな経緯が・・・
カツラ業界にもあるものです。
私はその後も、より高品質な人工毛の研究開発に
力を注ぎ続けました。
私どもを応援してくださるお客様に、
臨床試験モデルになっていただき、
新たな商品開発を行っていました。
このような人工毛カツラの研究が、
他の人工毛メーカーに認知されるに従い加工や
装着といった試験の依頼を数多く依頼されるようなり
人工毛カツラ専門店としての地位も徐々に高まっていきました。
人工毛の品質が良くなりだすと、
大手、中小をとわず他のカツラ店も人工毛カツラを取り扱うようになり、
それにともなって、さらなる技術向上という好循環が回りだしました。
こうして人工毛カツラが日本中に普及したわけです。
現在では、人工毛と人毛をミックスする比率を調整して、
ユーザーの髪質やライフスタイルなどにフィットするといったことが
普通に行われるようになりました。
このようなカツラの技術革新に
私の情熱が少しはお役に立てたものと密かに自負しています。