なぜ、カツラはオーダーメイドなのか?
手っ取り早くカツラを入手する方法として既製品を買うという選択肢があります。大きさ、形、色合い、毛量がぴったり合うものがあれば、これほどラッキーなことはありません。しかし合わない場合、特に頭の形に合わない場合、妥協して購入すると後悔することになるかもしれません。
人の頭の形はいろいろ
実は、カツラのほとんどがオーダーメイドなのは、カツラを装着する人の頭が、「1人1人、形や大きさが異なるから」です。もちろんその他にも、毛髪の種類や装着方法やヘアースタイルやなど、オーダーメイドでないと対応出来ない要素はたくさんあります。しかし、そもそも頭の形にフィットしていないと、どのような惨状を招くのか。代表例を実際の型を使ってご紹介します。写真は横から見た状態で左側が前の生え際にあたります。
左端の写真は前の生え際はぴったりとフィットしておりますが、後頭部はどうでしょうか。浮き上がっています。このような場合両面テープなどの固定用品を使って浮いた部分を頭皮にそわせても、カツラ自体が元の形に戻ろうとするため結局は浮き上がってしまいます。頭とカツラの間に隙間ができ、後頭部のカツラの髪も一緒に浮き上がってしまい、一般社会ではあまり見ることのない髪型になってしまいます。
一方、右の二枚の写真はいかがでしょうか。前を密着させた状態での後頭部をご覧ください。しっかりフィットしております。これだけしっかり型が合っていれば浮き上がるということはありえませんし、最小限の固定方法でも十分に安定します。
形の合わない既製品は、写真左端のような状態になり、ほとんど使い物になりません。女性用カツラの場合は、大部分毛髪の残った状態でよりボリューム感を出すための商品が多く、頭の形の影響は受けにくい為、既製品でも対応可能です。しかし男性の場合は、自毛が少ない状態で、地肌に密着させることが前提となります。
男性カツラのほとんどがオーダメイドなのは、そのためなのです。
型取りという技術
この頭の形やサイズに合わせた型をつくるのが「型取り」という技術です。服にもオーダーメイドはありますが、布はある程度伸縮しますので、多少の大きさや形の違いには対応出来ます。しかしカツラは、頭皮に直に密着させますので、僅かのズレや浮きを、直接肌で感じることになり、合わないと、四六時中違和感を感じることになります。
弊社のカツラの技術者も、一つのオーダーメイドカツラを作る為、それこそ世界に一人だけのお客様の頭の形に常に寸分の狂いも無く型どり作業を行っています。
型取りの方法もメーカーによっていろいろで、自動化されているところもありますが、弊社の場合は、全て手作業で行っています。指で触れながらお客様の頭の形を一つ一つ確認し、成形していきます。さながら伝統工芸の陶工のようで効率は悪いですが、お客様の頭の形に完全にフィットした型を作るには、一番確実な方法です。
何十年とオーダーメイドカツラを制作している技術者も、この型どりだけは、毎回1人1人初めての型になるわけで、試行錯誤してお客様の満足を得る為に、それこそ数ミリ単位でカットしたりへこませたりを繰り返しています。
お客様は、完成形のヘアスタイルを一番気にされると思いますが、実はそれ以前の頭に装着した時のフィット感はとても大事で、日々の快適感を決める重要な要素です。
良く出来た型は、良くフィットするカツラになり、付けていることを忘れるくらい自然な装着感となります。
さらに型取り作業は、これで終わりではありません。成形された型に、こんどは現状の毛髪の状態と希望されるヘアースタイルに合わせ、毛髪のレイアウトを決め、さらに固定具の配置、生え際の処理など細かな情報を書き込んでいきます。
つまり型とは、立体的なカツラの設計図なのです。
如何でしょうか?オーダーメイドのかつらは、世界に一つしかない一品物です。そのための最初の入り口が型取り作業です。弊社もですが、この方法を選択している会社は技術者の養成が欠かせません。そのため毎月技能講習で修練していますが、型どりに日々悩み睡眠不足になっている技術者が居るほどです。
匠がこだわり抜いた型どり、見る機会があればぜひ手に取って質問してみて下さい。きっと喜ばれると思います。