人毛と人工毛のはなし(1)
みなさん、カツラ、ウィッグがどんな風に作られているのか、興味はありませんか?
男性用、女性用、医療用、いろいろな用途で用いられるカツラですが、基本的な構造はどれも同じです。
基本的な構造は同じなのですが、オーダーメイドかつらというのは、たくさんの技術やノウハウがちりばめられたとても精巧なものでもあります。
AさんとBさんのカツラ、一見同じに見えても使う方のおひとりおひとりに合わせて作られた特注品です。
でもどこが違うのか、やっぱりちょっとわかりにくいですよね?
どんな技法が使われてオーダーメイドカツラというものが作られているのか。それを知るために構造を細かく見ていきましょう。
まずは基本的な構造について。肌に近いところから、どんな部位に分かれているのか、順番にならべてみます。
まずは装着具。ここが直接肌に接する最初の部分です。
次に肌に接しているベース部分。これはネットや繊維状のもの、フィルムなどでできていることが多く、毛髪もここに植えられています。
場合によってはこのベース部分の上に、さらに人工皮膚やネットスキンといったものが使われる多層構造となっていることもあります。
そして一番外側にあるのが毛髪です。
今日はカツラにとって最も大切な部分、人からみられる唯一の場所、この『毛髪』について技術的な視点でお話ししてみたいと思います。
1.毛髪で語れないカツラの良し悪し
カツラに使われている毛髪は大きく分けて2種類あります。人毛と人工毛です。
「人毛は高価で手触りが自然。だからいいもの」
「人毛に近い風合いの特許技術でつくられた人工毛はとてもいいもの」
カツラに興味のある方がネットでお調べになると、だいたいこのような文言を目にします。
本当にそう思いますか?
カツラの自然さを追求する技術者的な視点で言えば、人毛も人工毛も、それぞれの特徴をもった『いち素材』にすぎません。
そもそも『人毛VS人工毛』の様に優劣を競いあうものではありません。
互いの特徴を生かして使い分けをするものです。
2.人毛と人工毛、それぞれの特徴
人毛と人工毛の特徴を細かいことまで取り上げると本当に多種多様でキリがありません。
ですから、カツラを作る、使う上で特に重要な特徴だけを重点的にご説明いたします。
人毛の特徴
(1)人毛ならではの自然さ。
(2)時間とともに変色する。
(3)手入れをしないとモツレやすい。
一般的に人毛製品は扱いが難しいと思われていますが、ある意味本当です。ちゃんとお手入れをすれば何も問題はないのですが、雑に扱うとモツレやすく、スタイリングにも時間がかかりやすい傾向です。
カツラのお手入れに時間を掛けられる方や扱いに慣れた方にはいいのですが、そうでなければ、最初のうちは人毛100%の製品は避けた方がいいと思います。
はじめてのカツラで人毛100%の製品を選んだ場合、お店で専門家のケアが必要になる頻度が上がります。
人工毛の特徴
(1)アクリル系、ポリエステル系、ナイロン系、塩ビ系など種類が豊富。
(2)人毛に比べ、太さ、コシが一定
(3)利点にも欠点にもなる軽さ
人工毛100%のカツラにはスタイリングのしやすさや軽さ、お手入れの気軽さに染め直し不要の便利さといった、人毛にない利点がたくさんあります。
ですが、スタイルによっては人毛のしっとりとした重さが丁度よかったり、用途によっては人毛の摩擦への耐久性が良い結果を生むこともあります。
つまり毛種は使い方に応じて使い分けることが大切です。
では人毛と人工毛を混ぜて使うとどうなるでしょうか。
さまざまな毛種を混ぜて使う利点
じつは人毛と人工毛をミックスして使うことは、それぞれの毛髪の欠点を補いあう基本的な技法なのです。
人毛100%だとどうしてもモツレやすい面があります。ですがそこに一定量の人工毛を混ぜてやると、それが潤滑剤の働きをしてモツレにくくなります。扱いやすさが増します。
また、人毛は不特定多数の方から供給されるものなので、均一な太さを選べません。一本ずつ計ることもできませんし、そもそも人毛ですから、計る場所でも太さが違います。
使い分けできるとしたら「太め、細め」といったおおざっぱな使い分けになってしまいます。
ところが人工毛は均一な太さを維持しています。そして種類を選べばコシの強さを選べるのです。これは人毛にない利点です。配合を工夫すればスタイルや使い方にあったあなただけの『オリジナルブレンド毛髪』だって作ることができます。
そしてバッチリ合った『オリジナルブレンド毛髪』の使い勝手、見栄えは格別です。
3.毛種配合の難しさ
毛種配合のノウハウをもっているカツラ専門店はそれほど多くないと思います。カツラ業者への卸販売も行っているのである程度分かるのですが、配合を意識して使い分けができているカツラの販売会社というのはそれほど多くはありません。これ以上詳しくは言えないのですが・・・
ですが、毛種配合技術の利点をキッチリ説明できて、部位によって使い分けができているお店であれば、安心していいと思います。
毛種配合自体はそれほど難しい技術ではないのですが、ノウハウのない販売店は面倒な毛種配合をしたがりません。
たとえばカットなどのサロン業務がメインで、片手間にカツラを販売しているお店の場合です。
カツラ専門店で毎日何台ものカツラを作ったり修理したり、メンテナンスを行うカツラ専門店の技術者と違い、日常業務の合間に、カツラを取り扱う理美容師だと経験の差が大きくノウハウが蓄積できないのです。
理美容師でも普段扱っている人毛と近い感触の人毛であれば、人工毛の独特の扱い方に慣れていなくても自信をもって施術できるので、そういったお店ではあえて人毛を使った製品をオススメすることがあります。
あとは、製造工程やコストが増えるため大量生産品にも向きません。既製品やカンタンオーダーみたいな販売方法をとっているお店もお客様ごとにオリジナルブレンドをしない傾向です。
そのほかにも「新しい毛種が誕生しました」といった風に作り替えを勧めるために営業ツールとして毛種を利用するお店もあると思います。
さきほど説明した通り、毛種の選別は、目的を達成するための手段ですので、特に不満があるわけでもないのに毛種の大幅変更は大変なリスクを伴います。よくよく熟考する必要があります。
下のリンクは当社技術者が日々更新を続けているブログ記事です。
毛種配合が如何に重要であるか、技術者の真摯な取り組み姿勢に表れています。
人工毛は人毛と比べ安価ですが、世界中で大量に使われています。だからこそ製造技術の進歩も早く、安くて高品質な人工毛がどんどん登場してきています。
対して人毛は大昔から変わらず同じ人毛です。人毛はおそらくこれからも変わりません。
人毛が良いと考えておられる方も、ぜひ一度、進化を続ける現代の人工毛に注目していただければと思います。
余談をはさみましたが、良いカツラを作るために大切なのは毛種の使い分け、扱い方です。
人毛と人工毛。
どちらもそれぞれ特徴をもった素材です。余すことなく性能を引き出す技術の蓄積が大切なのです。
今回は毛種の特徴についてお話ししました。
次回は、毛髪をいかに自然な風合いにするためのツヤやボリューム感の調整方法についてお話しいたします。